ドリッパーを買い替えたい。でも、円すい型と扇形、結局どっちがいいのか——おうちコーヒーを楽しむ方から、いちばん多くいただく質問です。見た目が違うのは分かる。けれど、味がどう変わるのかまでは誰も説明してくれないまま、なんとなく選んでしまう。そんな方が、じつは多いのではないでしょうか。この2つ、お湯の流れ方がまったくの別物なんです。そして、その流れ方の差こそが、カップの中の「甘み」や「コク」を分けています。円すい型と扇形の構造から、味を本当に決めている「スピード」という主役、そしてCAFEC(三洋産業)が半世紀かけてたどり着いた答えまで。読み終わるころには、あなたが手に取るべき1台が、もう決まっているはずです。

1. 円すい型と扇形は何が違うの?
ドリッパーの形は、デザインの好みで分かれているわけではありません。形が違えば、お湯がコーヒーの粉を通る「道すじ」と「時間」が変わる。道すじと時間が変われば、抽出される成分も変わる。つまり形の違いは、そのまま味の違いなんです。
お湯が縦に通り抜ける「円すい型」と、お湯が溜まる「扇形」の特徴
円すい型は、底に向かって一点に絞り込まれ、大きな穴が1つだけ空いた形をしています。粉を入れると、中心に向かって縦に深い濾過層(ろかそう=コーヒーの粉が作る層)ができあがる。注いだお湯は中心へ集まり、深い粉の層をまっすぐ通り抜けて落ちていきます。つまり、お湯はドリッパーの中に留まらず、常に「通過」し続ける。これが円すい型です。

この構造には、はっきりした狙いがあります。1つ穴・円すい形が目指したのは、濾過層を深く取ることで、ペーパードリップにネルドリップの良さを取り入れること。お湯がコーヒーの粉に当たっている時間が長いほど、旨味を余さず引き出せる。回りくどく見えて、じつに理にかなった形なんです。
一方の扇形(台形)は、底面が平ら。CAFECのドリッパーでは、底に小さな穴が1〜2個あいています。粉の層は浅く、横に広がる。穴が小さいぶん、注いだお湯は一度ドリッパーの中に溜まり、水位を保ちながらゆっくり落ちていきます。CAFEC(三洋産業)の扇形ドリッパーでは、1〜2杯用は穴が1つ、3〜4杯用は穴が2つ。粉の量に対して抽出スピードが最適になるよう、穴の数そのもので流速を設計しているんです。
扇形は「お湯が一度溜まってから落ちる」
この流れ方の差が、味の個性を生み出します。
すっきりした甘みを引き出しやすい円すい型 vs コク深く安定した味を作る扇形
では、この流れ方の差は、カップの中でどんな顔になって出てくるのか。
円すい型:クリーンで、甘みが際立つ
お湯が溜まらず通過し続けるということは、粉の層に常に「新しいお湯」が触れ続けるということ。コーヒーの成分は、濃いところから薄いところへ移動する性質を持っています。新鮮なお湯が通り続けることで濃度差が最大化され、良質な成分だけを効率よく引き出せるのが円すい型の強みです。結果として、雑味の少ないクリーンな液体になり、コーヒー本来の甘みや旨味が前に出ます。
ただし、これは裏返せば注ぎ方がそのまま出るということでもあります。円すい型は、注ぎ方が味にダイレクトに反映される。
速く注げば速く落ち、静かに注げばゆっくり抽出される。コントロールの自由度が高く、同じ豆から幅広い味わいを引き出せる。腕が上がれば上がるほど応えてくれる一方で、クセもごまかしてはくれません。
扇形:まろやかで、奥行きのあるコク
お湯が一度溜まる扇形は、粉がお湯に浸っている時間が生まれます。この「浸る時間」が、円すい型にはない独特の質感と奥行きを生む。しかも抽出スピードが穴の数と底面の形で物理的に決まっているので、注ぎ方が多少ブレても味が大きく崩れません。ひたすら同じペースで走り続けるランナーのような安定感——これが扇形の魅力です。深煎り(Dark Roast)のどっしりしたコクや、ミルクに負けない濃度を作りたいときにも力を発揮します。
迷ったらどっち?
結論からお伝えします。私は、「豆の個性をしっかり味わいたい」なら円すい型、「毎日の一杯を安定して淹れたい」なら扇形がオススメです。
円すい型がおすすめな方
スペシャルティコーヒーの華やかなフレーバーや酸の明るさを楽しみたい方、「淹れ方を変えて味の変化を試すのが楽しい」という方。円すい型は、あなたの操作にきちんと応えてくれる器具です。
扇形がおすすめな方
中深煎り〜深煎りが好きな方、失敗したくない方、そして「まろやかで飲み飽きない、いつもの味」を求める方。扇形は、家庭でもっとも普及してきた形状。その安定感には、ちゃんと理由があります。
とはいえ、どちらか一方が優れている、という話ではありません。同じ豆・同じ挽き目・同じお湯の量で淹れ比べても、驚くほど味が変わる。器具を使い分ければ、豆1種類でも毎日違う表情を楽しめる——これがハンドドリップの本当の面白さです。

2. CAFEC独自の抽出理論
ここまで「形」の話をしてきました。けれど、正直に言えば、形は入り口にすぎません。円すいか扇形かという分かれ道の奥に、もっと本質的なものが隠れています。それが「お湯が粉を通り抜ける速度」=透過スピード。CAFECが50年以上かけて突き詰めてきたのは、じつはこの一点だったんです。
注ぎの技術以上に味を左右する「お湯が粉を通り抜ける速度」とは?
コーヒーの抽出は、大きく2つに分けられます。粉をお湯に浸す「浸漬(しんし)法」と、粉で層を作ってそこにお湯を通過させる「透過法」。CAFEC式ハンドドリップが採用しているのは、後者の透過法です。
ここで、知っておいていただきたい事実があります。透過法では、おいしい成分が先に出て、そのあとから雑味が流れ出てくる。順番が決まっているんです。つまり抽出には、「おいしいところで止める」というタイムリミットがある。速すぎれば薄く物足りず、遅すぎれば雑味まで一緒に落ちてくる。最適な速度で、最適なタイミングで終える——これが美味しさの正解です。
その速度を決めているのが、2つの力のせめぎ合いです。CAFECはこれをOsmotic Flow(オズモティックフロー)という理論で体系化しました。
この2つが均衡している状態では、濾過層が崩れず、常に新鮮なお湯が通り続けます。ところが、力Aが強すぎる注ぎ方——たとえばドリッパーの中にお湯を溜めてしまったり、粉全体にドバッと注いだり——をすると、濾過層は壊れてしまう。その瞬間から、透過法の器具を使っていても、中身は浸漬法に近い形に変わってしまうんです。
だからこそ、透過スピードのコントロールが
味の決め手になるのです。
もうひとつ。注ぐときは、ペーパーフィルターの縁(フチ)にお湯をかけないこと。意図せず、お湯が粉の層を通らずに壁面を伝って落ちる「バイパス現象」が起きると、抽出されていない薄い液体が混ざり、せっかくの味が濁ってしまいます。お湯は「注ぐ」のではなく、中心から「乗せる」イメージで。
雑味が出る前にドリップを完了させる円すい型の物理的優位性
「理屈は分かったけど、そんな繊細なコントロールは自分には無理……」——そう感じた方こそ、次の話を聞いてください。CAFECの答えは、じつに明快です。腕でコントロールするのではなく、器具とペーパーフィルターでコントロールできるようにする。これがCAFECのモノづくりの、根っこにある思想です。
その象徴が、2016年にデビューした「フラワードリッパー」。上から見ると花びらのように見える、深くえぐられたフラワーリブ(溝)が最大の特徴です。
この形状には、明確な物理的理由があります。ペーパーフィルターがドリッパーの壁面にぴったり貼り付いてしまうと、空気の逃げ場も液体の通り道もなくなり、お湯の流れが滞る。フラワーリブ(溝)は、ペーパーと壁面のあいだに十分な空気層を確保します。新鮮なコーヒーの粉がガスで膨らむのを妨げず、理想的な濾過層をキープしたまま抽出できるのです。
さらに、ペーパーとドリッパーの接触面が少ないため、注湯スピードがそのまま透過スピードに反映されます。速く注げば速く、静かに注げばゆっくり。狙った速度で、雑味が流れ出る前にドリップを完了できる——これがフラワードリッパー(60度)の物理的な優位性です。
そのフラワードリッパー、じつは角度によって性格がまるで変わります。
フラワードリッパー(60度):オールラウンド。バランスが良く、注ぎ方の変化に忠実。
DEEP45(45度):3〜7杯用。角度を絞ることで深い濾過層を実現し、多杯用に対応し、クリアさとコクを両立。
DEEP27(27度):1杯専用。極限の鋭角で、少量でも十分な濾過層の深さを確保。
フラワードリッパー オーバル(扇形):意図的にお湯を溜め、まろやかな甘みと重厚なコクを引き出す。
興味深いのは、円すい型を60度→45度→27度と突き詰めた先で、CAFECがあえて扇形の「オーバル」にたどり着いたこと。上から見て楕円形にすることで、通常の60度より角度を少し狭め、お湯を全体に広げてフレーバーを引き出す設計です。円すいを極めた人間が、最後に扇形へ戻る。単なる原点回帰ではなく、進化した扇形なんです。

少量抽出の難しさを27度の狭角で解決した、1杯専用「DEEP27」の秘密
ハンドドリップで意外と手こずるのが、1杯だけ淹れるときです。粉が10g〜12gしかないと、ドリッパーの中で粉の層が薄くなり、お湯が一瞬で通り抜けてしまう。濾過層が浅いと成分を引き出しきれず、味がぼやける。「2杯分作ったほうが美味しい」と感じたことがあるなら、犯人はここにいます。
この問題を、角度という物理で解いたのがDEEP27です。底の角度を27度まで絞り込むことで、少ない粉でも縦に深い濾過層が形成される。お湯が粉と接触する距離が長くなり、1杯分でもしっかり旨味と甘味を引き出せます。
加えて、円すいが鋭角になるほど、容積に対する壁面の表面積は大きくなります。ペーパーフィルターの壁を有効に使えるようになり、抽出の設計そのものが変わってくるのです。
そしてDEEP27の真骨頂は、中心への一点注湯を続けるだけで、自動的に理想的な抽出になること。技術の差を、器具が黙って埋めてくれる。CAFECの哲学が行き着いた到達点といえるモデルです。実際、3種類を淹れ比べた比較では、DEEP27はもっとも速く抽出が完了し、フレーバーと酸の鮮明さが際立つという結果になりました。
ための27度。
技術ではなく、角度で美味しさを担保します。
ひとつだけ、注意点を。DEEP27には専用のペーパーフィルターを必ず使ってください。大きめの円すい形ペーパーを半分に折れば物理的には入ります。でも、それでは壁面のフィット感も透過スピードも変わってしまい、味がまったくの別物になってしまいます。
3. 最後の一滴まで濁らない!CAFEC「アバカフィルター」がおすすめな理由
ドリッパーの話をさんざんしておいて、こんなことを言うのもなんですが——透過スピードを決めているのは、ドリッパーの形だけではありません。お湯が最後にくぐる関門、ペーパーフィルター。じつはこれが、流速を左右する隠れた主役なんです。「たかがペーパー、されどペーパー」。CAFECが50年以上こだわり続けてきたのが、この一枚です。
まとめ:形を知り、流速を知れば、一杯はもっと自由になる
円すい型と扇形。どちらが正解か、ではありません。お湯の流れ方が違うから、引き出せる味わいが違う。そして、その流れ方=透過スピードをコントロールできれば、味は狙って作れるようになる。冒頭の「結局どっちがいいの?」への答えは、じつは「両方を、使い分ける」だったんです。
すっきりした甘みとクリーンな味わいが比較的好きなら、円すい型のフラワードリッパー。1杯を最高の状態で淹れたいならDEEP27。まろやかで重厚なコクを楽しみたいなら扇形のオーバル。そして、そのすべての土台を支えるのが、CAFECのペーパーフィルターです。
抽出の目安は、10gで120cc、12gで150cc、15gで200cc。お湯の温度は90℃〜92℃(深煎りは83℃〜85℃)から始めてみてください。あとは、濾過層を壊さないように、中心から静かにお湯を乗せていくだけ。
難しそうに見えるハンドドリップも、仕組みが分かればちゃんと再現できます。足りない技術は、器具が支えてくれる。今日の一杯が、昨日より少しだけ美味しくなる。その小さな積み重ねこそ、おうちコーヒーのいちばんの楽しみですよね。あなたの毎日に、素敵なコーヒースマイルが生まれますように。